いろいろな方からMIXについての質問があったので、コラムを書いてみました。
MIXについての説明や、MIXの大まかな工程について記載しています。
もくじ
- MIXとは
- ボーカルMIXのおおまかな工程
- おわりに
【MIXとは】
※(注)例え話についてわかりやすいように説明したいがゆえに、現実とは異なる表現があったりしますが、そこはご了承ください。
まずMIXについてです💡
MIX(ミックス)とはその名前の通り、複数の音のバランスをとって混ぜて1つにまとめて出力することを言います✨
例えばなのですが、カラオケに来た時にみなさん歌うかと思いますが、まず歌う前もしくは歌い始めたときに何をしますか?
下の画像のようにオフボーカルの音が大きい/小さい場合や、マイクの音が大きい/小さいときに音量のバランスをとるかと思います。
身近なもので言うならばこのような作業がミックスにとても近いです💡
もう少し大きい範囲で物を考えてみましょう💡
アーティストさんが曲をリリースするために録音するとき、各パートの音を録音します。
その際にレコーディングエンジニアさんが録音機器を楽器につないだり、マイクにつないだりして、録音をします。
部屋は録音の仕方にもよりますが、みんな別々の部屋で、演奏したりします。その際に、レコーディングエンジニアさんが各部屋にほかの部屋の音をヘッドフォン等から流してくれるので、それに合わせてみんなで演奏します。(別撮りの場合もあります)
録音が終わったら、録音された音を編集して、ミックスします。
先ほどのカラオケの説明だと、ただ音のバランスをとるだけでしょ?簡単じゃん!!と感じるかもしれませんが、先ほどと同じ感覚でMIXをすると下記のようなことが起きます。
例えば
①正面から全部の音が聞こえる。
②部屋の反響が異なり、重ねても違和感がある。(大げさな例だと、大きなホールで録った音と部屋で録った音だと響きが異なったり)
③音量のバランスをとっても、ところどころ楽器がうるさくてボーカルが聞こえなくなってしまう。
④各パートの目立ってほしいところで、ごちゃごちゃして良さをつぶしあっている。
⑤音が薄っぺらくてちゃっちい。
などなど、音量のバランスをとるだけだと、こういった違和感や問題が発生してしまいます。MIXではこれらの違和感や問題を解消して、全てのバランスをとり、1つのファイルに出力をする必要があります。
では実際にどのような作業工程があるのか?
次の節で見ていきましょう!(今回はボーカルミックスに着目して説明します💡)
【ボーカルMIXの大まかな工程】
ボーカルMIXの大まかな工程ですが、下の表のようなものがあります✨
順々に説明していきましょう。
まず依頼についてです。依頼は依頼者から依頼が来ます。大体「○○のMIXをお願いしたいのですが、大丈夫でしょうか?」「こんな感じにMIXしていただきたいのですがお願いしてもいいですか?」「お値段はいくらでしょうか?」などのやり取りがされます。
次に音源の受け取りです。依頼者が歌を録音して、ギガファイル便やメール等でファイルを送ってきます。そちらを確認していきます(例えば歌の間違え等がないか?録音がしっかりしているか?ノイズなど対応できる程度のものか?など)。自分の持っている環境ではクオリティが保証できない場合はこのタイミングでリテイクをお願いするか、完成のクオリティの保証が出来ないといううえで、断ることになります。
次にノイズ除去等の整音作業があります。
こちらはマイクで録音したことがある人はわかるかもしれませんが、自宅で録音等をする場合は、冷蔵庫の音や空調の音などの周囲の環境音が入ってしまったりします。(環境ノイズ)
マイクのノイズが常に録音に乗ってしまったりすることがあります。
(ハムノイズやヒスノイズなど)
また歌っているときに唇や舌から出るぺちゃなどの音や(リップノイズ)、マイクの入力が大きすぎて潰れているところ(クリッピング)、マイクが吹かれて「ブフォ」という音が入ってしまっているところ(ポップノイズ)などなどの音を整音します。
次にピッチ編集です。下図のようなピッチ補正ソフトを用いて、音程が外れているところ等を直していきます。この時に音のタイミング等も一緒に直していきます。(ちなみにたいていのソフトが縦軸が音程、横軸が時間になっています)
ピッチ編集ソフトでは音声を再生させると、時間経過に対する現在の音程がマッピングされます(下の画像の緑やオレンジの四角部分が音程をマッピングしています)。
それを上下に変化させたりすることで、ピッチの補正をすることができます。ただし、こちらの作業は歌の音程を覚えていなければならないこと、また急激に変更すると違和感があるようになってしまうなど、修正箇所が多いと、とても大変な作業になっています。
次にハモリ作成です。こちらはピッチ編集ソフトを用いたり、あとはもう少し簡単にハモリを作れるソフト(一定音程ピッチを変えてくれるソフト「ピッチシフター」)を用いて作ったりします。
次に音質を整えます。こちらの音質を整える作業なのですが、いろいろなことをしていきます。例えばなのですが、下記のようなことを行っていきます。
①EQ(イコライザー):音の各成分を上げ下げして整えることができる。
音の特性を周波数(音の高さ)と音量(デシベル)であらわしたものを周波数曲線といいます。一応下に図を載せておきます。縦軸が音量、横軸が周波数となっています。
人の声は各人それぞれ特徴が異なっていて、いろいろな音の成分で構成されています。この成分を部分部分音量を強めたり、弱めたりすることが出来るのがEQです。下図のような形状のものがあります。
周波数帯ごとに音を上げ下げすると、どのような変化が起きるかというと、
例えば、「高域の音量を上げると、声が透き通る」「中低域の音量を上げると、音がしっかりする」「中域以外を下げるとラジオを通したような音になる」などなど、周波数ごとの音量を変化することで、音質を変えることができます。
これを用いて、曲に合うような音質に変えたり(例えばクラシックだったら柔らかくて温かみがあるような声質にしたり、ロックだったら硬めのギラギラした音にしたり💡)します。
あとは声が曲に負けないように成分を変えたりします。
※【マスキング効果】というものがあり、簡単に言えば、大きい音が同時になると、小さい音が聞こえなくなるという性質です。
これは周波数帯ごとの成分にも適用されるので、例えばギターの音が低音域~中音域が高かったとします。またボーカルの音が中音域~高音域が高かったとします。このとき、ボーカルの中音域がギターの中音域よりも音量が低い場合、実際に聞く音はボーカルが高音域だけの細い音に聞こえてしまいます。(これは中音域がかぶってしまっているためです。)なので、MIXの際には音源等のEQを弄ったり、声自体のEQを弄ったりして、ボーカルの聴かせたい周波数(成分)が常に優位になるようにしてあげることが重要です。(厳密にいうと常にではないのですが、わかりやすいようにそう書いておきます。)
②COMP(コンプレッサー):音量がある一定量越したら、音量を減衰させる。
コンプレッサーは音量に対して、ある閾値を設定します。閾値を超えた場合、音量は圧縮(小さく)されます。(下図イメージ)
この機能を用いると、どんなことができるかというと、大きい音を小さくするので、ボーカルで急激に声が大きくなったところ等をめがけて閾値を設定すれば、そこの音を小さくすることができ、全体の音の大小のばらつきを小さくすることができます。他にも使い方によっては色々なことができます。
一応パラメーターは以下のものがあります。
・ATTACK:音量が閾値を上回ってから音を圧縮(小さく)し出すタイミングをずらすことができる。
・RELEASE:音量が閾値を下回ってから音を開放(元に戻す)し出すタイミングをずらすことができる。
・THRESHOLD:閾値。この値を超えるとコンプレッサーが音量を圧縮(小さく)し始める。
・RATIO:音を圧縮(小さく)する割合を決める。
※実際圧縮する量は、音量が閾値を超えた際に、超えた量に対して、割合で小さくします。下の画像にイメージ図を載せておきます。
※割合圧縮なので、音量が閾値から大きく上回れば上回るほど、音量がかなり小さくされ、音量が閾値から小さく上回る程度だと、音量が少しだけ小さくされます。そのため、全体の音量を平滑化することができるという仕組みです。
コンプレッサーは下のような形状をしています。
コンプレッサーにはマルチバンドコンプという、周波数ごとに圧縮することが出来るようなものなどもあります。
またコンプレッサーのATACKやRELEASEを使いこなすと、例えば発音時のアクセントを強めたり等が出来たりします。
③ダブリング:こちらはモノラルをステレオ化したり、音に厚みを付ける処理となっています。
みなさんはマイクで録ったときの音ってステレオ、モノラル、どっちになっていると思いますか?
左右の音に分かれているからステレオだ!マイクがモノラルだからモノラルだ!などと意見が分かれるかと思います。ここで注意です!
ステレオトラック等に接続してマイクで録音した波形等を左右で見比べてみると、同じ波形をしています(バイノーラルマイク等はマイク自体に2か所録音箇所があるのでまた別ですが…)。
ここで音響心理的な観点なのですが、左右で同じ音が鳴っているときって人間ってどこから音が聞こえていると認識すると思いますか?
実は正面から音が発生していると認識します。
その裏付けとして、音の発生のアナライザー(解析ソフト)を見てみましょう!
(下の画像はクリックで拡大できます)
図に詳細を記載しているのですが、直線的な音が出ていることがわかります。
次にダブリングを用いてから波形を確認しましょう!
こんな感じで音に範囲を持たせることができます。他にも同じ方向に同じ音を鳴らせることで、音を強め合わせて太くするという方法もあり、そちらを用いると、ほかの音に負けにくくなります。
④エンハンサー:倍音を付加し、音を前に出したり、太くしたりする。
こちらについては後日更新したいと思います。
次にパン振りです。前項目でも少し触れたのですが、パンとは音がどこから聞こえるかを振り分けることができる機能です。こちらを用いることで、「横から突如ハモリが聞こえたりすること」や声劇等ですと、「人が左から右へ歩いていく」などの表現ができます。
楽曲制作の場合はギター・ベース・ドラム・ボーカル等の音がかぶらないようにずらすことなどもできます。
※ほど音響心理学的な観点から同じ音が左右から聞こえると正面から聞こえていると認識すると伝えたかと思うのですが、そちらを応用していて、内部では左右の音の強さを変えたりして、左/右から聞こえているようにしています。
次にエフェクトを付加します。
エフェクトは色々あるのですが、あとから調べやすいように王道のものを羅列しておきます。
①リバーブ:いわゆる反響音(カラオケのエコー)を付加する。
②ディレイ:やまびこのように響かせることができる。
③ピッチ補正:ピッチ補正を高速で行うことでロボットボイスができる。
④ディストーション(オーバードライブ):声を歪ませる。(ノイジーな声になる)
などなどがあります。リバーブなどは音源との環境を似せたりするのに用いたりもします。いっぱいあるので、時間つくれたら追記もしくは新たにコラムを書きたいと思います💡
最後にマスタートラックの編集(マスタリング)があります。マスタリングでは、全体の音質を整えたり、媒体に合わせて音圧をそろえたり(CDやDLサイト用・Youtube用など)したりします。
マスタリングが終わったらファイルを出力し、依頼者に提出します。
最後駆け足でさらっと終わってしまいましたが、このような手順でMIX等が行われています。
【おわりに】
今回、MIXってなにやっているのか初めて知る人に対して、コラムを書きました。後半突っ込んだところに触れたりしたため、ちょっとわかりにくいところもあったかと思いますが、MIXとはこんな感じなんだ!というニュアンスをつかんでいただけると嬉しいです。
Leave a Reply